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『東海道四谷怪談』愛と情熱の按摩“宅悦”

5月19日。連日大評判の『東海道四谷怪談』の公演も中日を突破し、気がつけば千穐楽まで5ステージを残すのみとなりました。私がかつてない悲壮な覚悟で挑んだ“宅悦さん”を演じられるのもあとわずかです。

「私が宅悦?何かの間違いでは…」
半年前の配役発表には仰天しました。歌舞伎ファンならずとも四谷怪談の宅悦といえば誰もが知る超有名人。お岩さんの屈指の名場面『髪梳き』を支える大役中の大役。あまりの衝撃に体が震えました。
「私に勤まるはずがない。」
その日から私の眠れぬ日々が始まりました。

そんな私が今日まで、どうにかこうにか、かろうじて、舞台を勤めていられるのは“二人の恩人”がいてくださったおかげだと思っています。

一人は34年前に宅悦を演じられた座の大先輩、村田吉次郎さんです。切羽詰まった私は4月の初め、教えを請いに吉次郎さんのご自宅にうかがいました。
「ごめん、柳生君。当時のことは何も覚えてないんだよ」
と大笑いされながらも、ちゃんと昔の台本を用意して下さり、髪梳きの段取りを克明に記したメモまで私にくださったのです。この貴重な“村田メモ”のおかげで私は稽古入りまでに髪梳きにおける、ややこしい宅悦を動きを全て頭にたたき込むことができました。
「髪梳きは段取りも大変だけどもっと大事なのは赤ん坊に限りない愛情を注ぐことだよ。あの貧困の中で最低の生活をすごしてきたどうしようもない男にもこんな優しい人間性があったのかということを赤ちゃんをあやしながら表現することが肝心なんだ。」
と吉次郎さんはしみじみとおっしゃいました。
私は吉次郎さんのこの言葉をかみしめながら毎ステージ、子守唄を唄っています。

もう一人の恩人は他でもない、河原崎國太郎さんです。私は稽古中から國太郎さんのこのお岩役に賭けるただならぬ気合いを側で感じて圧倒されそうでした。これほど凄まじい國太郎さんを見たのは初めてです。
劇団に入って30年。思えば私はずっと國太郎さんにお世話になりっぱなし。
南北の幻の作品『 解脱衣楓累 』の四国、九州、中国地方と続く果てしないロングランの巡演に参加した時のことです。慣れない歌舞伎、初めての女方、先代芳三郎さんの専任助手、やることなすこと失敗ばかり、みんなに怒られて、もうパニックになってガックリして楽屋に戻ると、脱ぎ捨ててあったはずの私の衣装がきれいにたたまれていました。当時まだ市太郎さんだった國太郎さんがしてくださったのです。
「こんな優しい人がいるなんて…」
嬉しくてありがたくて涙が出ました。あの日のことは本当に忘れません。
以来國太郎さんは私の劇団におけるかけがえのない“親友”として長年付き合ってくださっています。
その國太郎さんがまさに決死の思いで、命懸けでお岩役に挑んでいる今こそ、私はこれまでの恩返しをしなければならない、私も自分の全ての情熱をこの宅悦に注いで何としても國太郎さんのお役に立ちたいと思いました。
宅悦がお岩さんを心から気の毒に思う愛情と、私が國太郎さんの役に立ちたい思う情熱と、役の心と自分の心が一つになれば、きっと道は開けると信じて私は今日も全力をつくして“宅悦さん”を勤めます。

柳生啓介
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